01日 6月 2007

日雇い

父がよく言った。

『ぼやぼやしやがって、

 お前たちみたいなのは、将来日雇い人夫になるぞ。』

確か現在、放送禁止用語ではなかろうか。

職業の貴賎の問題は、今はさておく。

 

父は船乗りだった。

『金がないから船乗りになったんだ・・・・。』

毎晩酒をのんでは、愚痴や説教が始まる。

そんなとき必ず『日雇い人夫』の話になる。

おかげでうちの夕食はいつも暗かった。

 

父の成績表を見たことがあった。

どの科目も『甲』(つまりオール5)だ。

秀才だった父が、

タンカーの、何万ガロンという原油の上で寝食し、

室温60度を超える機関室で、

きらきら舞い上がるアスベストをふんだんに吸い込み、

缶ピースを一日100本も吸い、

毎晩一升酒を飲み、

人生のほとんどを過してきたのだ。

 

やけになっているのだと、父を嫌っていた。

やがて反抗し、

家を出て、

父の存在などどうでもよい年月が過ぎた。

 

私も親になり、

その後大黒柱になり、

人並みよりちょっと多く苦労をし、

まあいろいろあって、

今は父が、

この世で一番尊敬する男となった。

 

幸せなことに、

父は健在だ。

 

先日夜のニュースの特集で、

『ネットカフェ難民』 のことを知って愕然とした。

 

『日雇い人夫』 ではないか。

 

いろいろ事情もあろうし、行政にも負うところはあるにしても、

彼ら、彼女らの多くが、

無計画のなれの果てなのだ。

 

父はやけくそで毎晩言っていたのではなかった。

まさに世の行く末を見極めていたのだ。

 

父が毎晩食卓を暗くしてくれたおかげかどうかはわからないが、

私は一応屋根のある家に住み、

人様に必要とされる仕事がある。

 

そして今日も子ども達に言って聞かす。

 

『ちゃ~んとお勉強しておかないと、

ネットカフェ難民になりますよっ!!』

 

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